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日本の伝統音楽である民謡が見直され、洋楽と同じような受容をされるという面白い現象が起こっている。_先入観のない若いリスナーにとっては、未知なる音楽として、_新鮮なジャンルとして聴かれているようだ。_民謡クルセイダーズやアラゲホンジなど、新しい解釈による民謡と洋楽のミクスチャーも、主に海外で見出されて、逆輸入のような形で日本のリスナーにも浸透していくようになった。
そんな中で、決定版ともいえる音源がついに発売となる。_こんにちの盆踊り再評価ブームの火付け役となったのは、中野区大和町八幡神社の大盆踊り大会、通称ダイボンである。これまでの盆踊りの概念を覆し、DJカルチャー、ヒップホップ、テクノ、ロック、ワールドミュージックなど多様なジャンルのアーティストを招き、その後のシーン形成に多大なる影響を及ぼした。_そのダイボンの中で生まれたプロジェクトが本作である。
もともとは盆踊りの櫓に乗せる演目のひとつとして、ヒューマンビートボクサーのAFRA、ラッパーのロボ宙、同じくラップとサンプラーを操るANIの3人組、ドーナツ・ディスコ・デラックスと、かつて江州音頭の革命児と謳われた初代桜川唯丸流の江州音頭を学ぶ、中西レモン率いるモノガタリ宇宙の会とのセッションとしてスタートした。
中西レモンは今回のジャケット画も手掛けるなど多彩な才能を持つ。去年発売になった、やはり民謡と洋楽のミクスチャーを試みたソロアルバム「ひなのいえづと」で絶大なる評価を得ていることも記憶に新しい。そのアルバムにおいてアレンジとプロデュースを手掛けた_あがさが、本作でも中心となってアレンジを担当している。
両A面となる本作のもう一面は、タイのモーラムを日本で再現することで注目を集めるモノラルミニプラグとのコラボレーションとなっている。こちらもダイボンでの共演から発生したプロジェクトである。タイ在住のメンバーもいる為、現地でのオーバーダブを含むワールドワイドなレコーディングとなった。
プロデュースは、盆踊りブームの仕掛け人であり、オオルタイチや海藻姉妹、ウンベルティポなど、多彩なアーティストの作品を生み出してきた岸野雄一が手掛けている。
ゲスト・ミュージシャンも豪華だ。ベースに栗コーダーカルテットの栗原正己、ドラムスに多彩なセッションで知られるイトケン、ギターに柳家小春などとのセッションで知られる山田民族、キーボードに元・じゃがたらのエマーソン北村、またホーンセクションには日本におけるスカバンドのレジェンド、スカフレイムスのホーンセクションが参加している。
ここでは、民謡ともヒップホップともジャズファンクともモーラムとも分類・分離できないような一体感を伴った、新しいスタイルの音楽が創造されていると言っても過言ではない。